東京高等裁判所 平成11年(ネ)2417号 判決 1999年6月30日
控訴人(原告)
破産者株式会社市川化学研究所
破産管財人
蒲野宏之
右常置代理人
宮本健悟
被控訴人(被告)
市川恒彦
同
市川孝子
右両名訴訟代理人弁護士
佐井利信
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人市川恒彦は、控訴人に対し、一二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人市川孝子は、控訴人に対し、四〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
五 この判決は、第二、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
主文と同旨。
第二 事案の概要
破産会社株式会社市川化学研究所(以下「破産会社」という。)と被控訴人らは、平成七年六月三〇日、大阪地方裁判所平成三年(ワ)第一九〇九号事件(原告・被控訴人市川恒彦、被告・市川秀人ほか二名、利害関係人・破産会社、同・被控訴人市川孝子)において、訴訟上の和解を成立させ、これに基づき、①被控訴人市川恒彦が、破産会社の株式二万四〇〇〇株を代金一二〇〇万円で、②被控訴人市川孝子が、破産会社の株式八〇〇株を代金四〇万円で、それぞれ破産会社に売り渡し、破産会社から右各売買代金の支払を受けた。
本件は、その後、破産会社について破産宣告がされ、破産管財人に選任された控訴人が、右和解に基づく株式の売買は自己株式の取得に当たり無効である旨主張し、不当利得返還請求として、被控訴人らに対し、右各売買代金及びこれに対する催告の日の翌日(訴状送達の日の翌日)である平成一〇年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
1 破産会社は、昭和三五年二月一二日に設立された株式会社であり、平成三年七月三〇日以降の資本金は八〇〇〇万円となっている。破産会社の株式を譲渡する際には取締役会の承認が必要とされている(甲七)。
破産会社は、平成九年一〇月二〇日、東京地方裁判所において破産宣告を受け、控訴人が破産管財人に選任された。
2 平成七年六月三〇日当時、市川秀人及び今野桂子は、破産会社の取締役であり、市川洋子は、破産会社の監査役であった。被控訴人市川恒彦(以下「被控訴人恒彦」という。)は、市川秀人、市川洋子及び今野桂子の甥である(甲一、七、弁論の全趣旨)。
3 被控訴人恒彦は、平成三年三月一五日、市川秀人、市川洋子及び今野桂子を相手方として、大阪地方裁判所に真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求訴訟を提起した(同裁判所平成三年(ワ)第一九〇九号。以下「本件訴訟」という。」)。
4 被控訴人恒彦と市川秀人、市川洋子及び今野桂子は、本件訴訟において、平成七年六月三〇日、被控訴人市川孝子(以下「被控訴人孝子」という。)及び破産会社を利害関係人として加えたうえで、左記条項を含む裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
記
(一) 被控訴人恒彦は、その所有する破産会社の株式二万四〇〇〇株を譲渡代金一二〇〇万円(一株当たり五〇〇円)にて破産会社もしくはその指定する者に売り渡す旨確約した。
(二) 被控訴人孝子は、その所有する破産会社の株式八〇〇株を譲渡代金四〇万円(一株当たり五〇〇円)にて破産会社もしくはその指定する者に売り渡す旨確約した。
(三) 被控訴人恒彦は、破産会社から譲渡代金一二〇〇万円の支払を受けるのと引換えに破産会社に前記二万四〇〇〇株の株券を引き渡す。
(四) 被控訴人孝子は、破産会社から譲渡代金四〇万円の支払を受けるのと引換えに破産会社に前記八〇〇株の株券を引き渡す。
(五) 前二項の株式譲渡代金の支払と株券引渡しとは、平成七年九月末日までに行う。
5 本件和解に基づき、平成七年九月末日までに破産会社から、被控訴人恒彦に対し一二〇〇万円、被控訴人孝子に対し四〇万円が支払われ、被控訴人らから破産会社に対し破産会社の株券二万四八〇〇株が交付された。
6 破産会社の取締役会において、右株式の取得について、株式譲渡を承認する旨の取締役会決議がされている。
また、前記株式譲渡代金はいずれも、破産会社の帳簿上、破産宣告時に至るまで、「仮払金」として処理されており、交付された株式については「自己株」として株主名簿に記載されている(株主名簿の記載につき甲八)。
二 主たる争点
1 本訴請求は本件和解の効力に反し許されないか
(一) 控訴人の主張
控訴人が主張する不当利得返還請求権は、本件和解後に発生したものであるから、本件和解に定められた清算条項に抵触しない。
(二) 被控訴人らの主張
本件和解においては、被控訴人らと破産会社との間に、本件和解条項に定めるほかに何らかの債権債務がないことが確認されており、右和解条項の記載は確定判決と同様の効力を有するから、控訴人の本訴請求は右和解条項に抵触し、許されない。
2 破産会社が、本件和解に基づき、破産会社の株式二万四八〇〇株の交付を受けたことは、被控訴人らから破産会社に対する株式の譲渡に当たり、自己株式の取得として無効となるか
(一) 控訴人の主張
(1) 被控訴人らがそれぞれ受け取った譲渡代金は、被控訴人らがそれぞれ所有する株式を破産会社に売却した対価であり、右株式譲渡は自己株式の取得を禁止する商法二一〇条に違反し無効である。したがって被控訴人らがそれぞれ受け取った譲渡代金は不当利得となる。
(2) 本件和解では、破産会社が株式譲受人を指定しない以上、譲受人は破産会社となると定められていたものであり、仮に、譲受人の指定が必要であるとしても、和解後、破産会社が第三者を譲受人として指定しなかったことにかんがみれば、黙示的に、破産会社自らを株式譲受人として指定したというべきである。
(3) なお、破産会社は、株式消却の目的で右株式の譲渡を受けたものではない。また、本件和解の時点では、破産会社の純資産はマイナスになっており、株式消却、商法二〇四条の三の二第一項に基づく株式の取得等により自己株式の取得が許される条件は存在しなかった。また、右による取得につき、債権者保護手続、株式譲渡の承認請求及び株主総会決議等の法の定める手続が履践されたことはなかったから、自己株式の取得が許容される理由はない。
(二) 被控訴人らの主張
(1) 被控訴人らの株式譲渡代金の受領は、本件和解に基づく受領であり、「法律上の原因」がある。
(2) 本件和解の内容は、買受人が誰になろうが、あるいはそもそも買受人が決まっていなくても、平成七年九月末日までには、破産会社側、すなわち破産会社の役員や関連会社の側に譲渡せよという合意であって、それ自体は無効とされるものではない。破産会社が買受人を指定しない場合に破産会社が買受人になるという和解条項にはなっていないから、破産会社が買受人を指定していない以上、破産会社は、株式を譲り受けていないことになる。現に、破産会社の帳簿上は、本件株式譲渡代金は、「仮払金」として処理されている。
(3) 破産会社は、本件和解条項により、株式消却等の自己株式取得が許容された方法を取るか、他の株主や取締役又は関連会社に一定の割合で取得させるかの最終的処理を行うべき義務を負担したもので、破産会社は、一旦株式を取得しても、最終的取得者の計算において取得するにすぎず、それは取次的取得として商法が許容している。
(4) 破産会社は、本件和解当時、資本減少の規定に従った株式消却ができることはもとより、利益消却の方法による株式消却もできる状況であった。
また、譲渡された株式数は破産会社の発行済株式数の五分の一以下である二万四八〇〇株であるから、商法二〇四条の三の二第一項に基づく株式の取得もできる状況であった。破産会社は、取締役会決議により右株式の取得を承認しているが、大部分の株主は取締役として右承認決議に名を連ねているから、右条項に規定する株主総会決議は実質上されているというべきである。
3 控訴人の請求は信義則に反し、権利の濫用として許されないか
(一) 控訴人の主張
控訴人が、右株式譲渡の無効を主張することは、資本の充実・維持や株主の平等などを図る商法二一〇条の趣旨に照らせば、権利の濫用には当たらない。本件和解当時、破産会社は債務超過の状態にあり、そもそも右株式は無価値であったところ、被控訴人らは、価値のない右株式を譲渡して一二四〇万円もの利得を得ている反面、これにより破産会社の資本の充実・維持が害され破産会社の債権者の利益が侵害され、かつ、被控訴人らのみが投下資本を回収し、株主平等の原則に反する結果になっているのであるから、控訴人が被控訴人らに対し譲渡代金の返還を求めても不当ではない。
むしろ、控訴人が株式譲渡代金の返還を求められないとすれば、被控訴人らのみが破産会社の責任財産により投下資本の回収をした結果になり、破産会社の債権者及び株主の平等を害し、信義則に反する。
(二) 被控訴人らの主張
破産会社が買受人とされたのだとすれば、破産会社は自己株式の取得を有効とするための手続きを履践しないで、違法に自己株式を取得したものである。被控訴人らは、本件和解に定められた義務として、株券を交付し、以後、利益配当請求権等の自益権、株主総会における議決権等の共益権を行使できなくなったものである。自ら違法な行為をした破産会社ないしは控訴人が、右各権利が全く無価値となった破産宣告後において、自己株式の取得による株式譲渡の無効を主張して不当利得の返還を請求することは、信義則に反し、権利の濫用である。
また、破産会社は、本件和解の際、粉飾した決算報告書を提出して自己株式の取得が可能である旨偽ったものであり、今になって、粉飾決算であるから自己株式取得が許される条件がなかったと主張するのは禁反言の法理に違背するものであり、控訴人の請求は信義則に反して許されない。
4 非債弁済の成否
(一) 控訴人の主張
破産会社は、本件和解に基づく株式の譲渡が自己株式の取得に当たることは知っていたものの、本件和解条項の記載から、売買代金合計一二四〇万円の支払義務があると認識し、これを支払ったものであり、非債弁済には当たらない。
(二) 被控訴人らの主張
破産会社は、本件和解に基づく株式の譲渡が自己株式の取得に当たり無効であることを知りながら、被控訴人らに合計一二四〇万円の売買代金を支払ったものであるから、非債弁済に当たり、控訴人は、右売買代金の返還を求めることができない。
5 相殺の成否
(一) 控訴人の主張
(1) 違法な自己株式の取得は取締役の職務の範囲に属さないところ、被控訴人らは、本件和解に基づく株式譲渡が破産会社にとって自己株式の譲渡に当たることを知っていたから、破産会社が、民法四四条により、被控訴人らに対し損害賠償責任を負うことはない。
(2) 本件和解においては、破産会社の取締役らが破産会社以外の買受人を指定する義務はないから、破産会社の取締役らが破産会社以外の買受人を指定しないことにより、破産会社が損害賠償責任を負うことはない。
(3) 本件和解当時、破産会社は債務超過の状態にあり、そもそも右株式は無価値であったから、自己株式の取得により右株式の譲渡が無効とされることにより被控訴人らが損害を被る余地はない。
(二) 被控訴人らの主張
本件和解に基づく株券の交付が、被控訴人らから破産会社への株式の譲渡に当たり、破産会社の取締役らが破産会社以外の買受人を指定しなかったことにより、自己株式の取得として右譲渡が無効になるとすれば、被控訴人らは、株式の譲渡代金の返還を余儀なくされるから、破産会社が債務超過に陥り株式が無価値となった時点で、株式譲渡代金と同額の損害を被ったというべきであり、破産会社は、右違法な自己株式の取得により被控訴人らに損害を与えたことになる。
したがって、被控訴人らは、控訴人に対し、民法四四条に基づく損害賠償請求権を有するので、平成一〇年一一月二四日の原審における第一回口頭弁論期日において、本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
第三 当裁判所の判断
一 本訴請求は本件和解の効力に反し許されないか(争点1)について
控訴人の本訴請求は、破産会社が本件和解に基づき、被控訴人らから株券の交付を受けるのと引き換えに、被控訴人らに対し売買代金合計一二四〇万円を支払ったことについて、これが右株券に表象された株式の譲渡に当たる旨、その後、破産会社が右株式を第三者に対し売却するなどせず、破産会社自らが譲り受けたと確定させたことにより、自己株式の取得として右株式譲渡が無効になった旨主張して、被控訴人らに対し、不当利得返還請求として右売買代金の返還を求めるものである。すなわち、控訴人の本訴請求は、本件和解後の事情により、右株式の譲渡が無効になったことを理由とするものであるから、本件和解の清算条項に抵触するものではない。
二 破産会社が、本件和解に基づき、破産会社の株式二万四八〇〇株の交付を受けたことは、被控訴人らから破産会社に対する株式の譲渡に当たり、自己株式の取得として無効となるか(争点2)について
1 前記第二、一4の事実によれば、本件和解においては、被控訴人らが、その所有する破産会社の株式二万四八〇〇株を譲渡代金合計一二四〇万円(一株当たり五〇〇円)にて「破産会社もしくはその指定する者に売り渡す」旨合意されているところ、本件和解において、譲渡代金が確定的に破産会社に支払われる旨定められていることを考慮すると、「破産会社もしくはその指定する者に売り渡す」との文言は、破産会社が確定的に右株式の譲受人になるが、その後、破産会社が右株式を第三者に譲渡した場合に、被控訴人らから右第三者に直接株式を譲渡した形式をとることを可能とするため用いられた文言であると認められる。
被控訴人らは、本件和解の内容は、買受人が誰になろうが、あるいはそもそも買受人が決まっていなくても、平成七年九月末日までには、破産会社側、すなわち破産会社の役員や関連会社の側に譲渡せよという合意であって、それ自体は無効とされるものではない旨主張する。しかし、右のとおり、被控訴人らは、代金の受領と引き換えに株券を破産会社に交付する義務を確定的に負担し、かつ、右義務を履行すれば本件和解に定められた義務をすべて履行したことになる一方、事実上、譲受人の名義を誰にするかは破産会社において被控訴人らの意向とは無関係に決定できることを考慮すると、本件和解の内容は、被控訴人らがその所有する破産会社の株式を破産会社に譲渡するというものであったと認められる。破産会社において、右株式譲渡代金を仮払金として処理していることは当事者間に争いがないが、これは、破産会社の内部処理の問題であり、本件和解条項に表示された破産会社の意思内容に影響を与えるものではない。被控訴人らの右主張は採用できない。
したがって、破産会社としては、本件和解に当たり、適法に自己株式の取得をするため、商法に定める手続を履践するか、自己株式を取得した後、すみやかにこれを第三者に売却して違法状態を解消する必要があったというべきであり、右のような手だてを講じず、破産会社が被控訴人らから破産会社の株式を自己のものとして確定的に譲り受けた行為は、自己株式の取得に当たり無効であるといわざるを得ない。
2 被控訴人らは、破産会社が、本件和解当時、資本減少の規定に従った株式消却ができることはもとより、利益消却の方法による株式消却もできる状況であり、また、譲渡された株式数は破産会社の発行済株式数の五分の一以下である二万四八〇〇株であるから、商法二〇四条の三の二第一項に基づく株式の取得もできる状況であった旨主張する。しかし、破産会社は、平成八年一二月三一日現在で、負債の額が資産の額を約一五億五〇〇〇万円上回る債務超過の会社であり、その三、四年以前から赤字期が続き資金繰りが苦しく経営困難を感じる状況であったが、銀行に対する信用度を高めるため架空の利益を計上するなどして粉飾決算をしていたことを考慮すると(甲四、五)、破産会社は、本件和解がされた平成七年六月三〇日当時においても債務超過の会社であったと推認され、資本減少の規定に従った株式消却、利益消却の方法による株式消却及び商法二〇四条の三の二第一項に基づく株式の取得ができる要件を備えていたと認めることはできない。
三 控訴人の請求は信義則に反し、権利の濫用として許されないか(争点3)について
被控訴人らは、自ら違法な行為をした破産会社ないしは控訴人が、被控訴人らの株式にかかる権利が全く無価値となった破産宣告後において、自己株式の取得による株式譲渡の無効を主張して不当利得の返還を請求することは、信義則に反し、権利の濫用である旨、破産会社は、本件和解の際、粉飾した決算報告書を提出して自己株式の取得が可能である旨偽ったものであり、今になって、粉飾決算であるから自己株式取得が許される条件がなかったと主張するのは禁反言の法理に違背するものであり、控訴人の請求は信義則に反して許されない旨主張する。
しかし、右二のとおり、本件和解当時、破産会社は、債務超過であったと推認されることを考慮すると、当時、既に被控訴人らの有していた株式は経済的には無価値であったと認められるのであり、客観的には、破産会社が無価値の株式を引き取る代わりに一二四〇万円の資金を被控訴人らに支払い、被控訴人らが無価値の株式を引き渡す代わりに一二四〇万円を受け取ることになるのであって、実質上、偏頗弁済がされたことと同視できるというべきであるから、破産管財人たる控訴人の本訴請求が信義則に反し、権利の濫用に当たるとは認められない。
四 非債弁済の成否(争点4)について
被控訴人らは、破産会社が、本件和解に基づく株式の譲渡が自己株式の取得に当たり無効であることを知りながら、被控訴人らに合計一二四〇万円の売買代金を支払ったものであるから、非債弁済に当たり、控訴人は、右売買代金の返還を求めることができない旨主張する。
しかし、破産会社としては、本件和解条項の文言に従い、譲り受けた株式を第三者に譲渡することにより違法状態に陥るのを避けること又は違法状態を解消することができたことを考慮すると、本件和解当時、破産会社において、株式の譲渡が自己株式の取得に当たり無効であって自己に売買代金を支払う義務がないとまで認識していたとは認められない。
したがって、被控訴人らの非債弁済の抗弁は理由がない。
五 相殺の成否(争点5)について
被控訴人らは、本件和解に基づく株券の交付が、被控訴人らから破産会社への株式の譲渡に当たり、破産会社の取締役らが破産会社以外の買受人を指定しなかったことにより、自己株式の取得として右譲渡が無効になるとすれば、被控訴人らは、株式の譲渡代金の返還を余儀なくされるから、破産会社が債務超過に陥り株式が無価値となった時点で、株式譲渡代金と同額の損害を被ったというべきであり、破産会社は、右違法な自己株式の取得により被控訴人らに損害を与えたことになる旨主張する。
しかし、前記二、三のとおり、そもそも本件和解当時、破産会社が債務超過であると推認され、右株式は経済的には無価値であったと認められるから、破産会社の取締役らが破産会社以外の買受人を指定しなかったことにより、被控訴人らがその主張のような損害を被ったものとは認められない。
以上のとおり、被控訴人らの右主張は採用できず、したがって、これを前提とする被控訴人らの相殺の抗弁は理由がない。
第四 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるからこれを取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)